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沙耶の唄 考察編その一「内臓と倫理」

虚野:七夕でした。皆さんは何を願いましたか。筆者は割とあの伝説どうでもいいと思ってるので恋愛ネタは書かないよね。

白石:ね。今年のはこれみたいね

 すべての異端者に平穏を 虚野 言葉

虚野:また使いやがった……。まあしかし今年は内容がまともなので許そう。リア充爆発とか書いたらどうしてくれようかと思ってたけど。それにこれは私たちへの祝福と取れなくもないし、善意解釈で。まあ沙耶の唄にあてられたというのが普通かな?

白石:まあともかく。前フリはこの辺で終わって。今日は解説編やるのよね?やっぱり心情解説?

虚野:いやそれはやらない。ガジェット(作中の表現、比喩、設定などの構成要素)を分解してみようと思う。題して考察編その一「内臓と倫理」

白石:へえ、少し珍しいわね。でもあれって意味あるの?話をかえってややこしくしないかしら。

虚野:いやそれはやらなきゃわかんないよ。ただ、これは割と国語教諭が好きなやり方だけどね。もっと上の人はあんまりやらないかもね。

白石:ふうん。私は聞きに徹するしかなさそうね。

虚野:では今回のゲストを。「地球最後の魔法使い」中務 蘇芳君です。

白石:誰それ!?はじめて聞いたわよ。

中務:ちいす、中務だ。つうか虚野、俺は魔道師を名乗ったはずなんだが。間違えるなと言ったはずだぞ。これは重要なことなんだ。

虚野:こいつは高校の同級生で喧嘩相手。ちなみにお前はどう考えても魔法使い。お前の理論破たんしてるもん。まあ、昔取ったなんとやらで呪術とか記号とか象徴には比較的強いからね、こいつ。

白石:よろしくお願いします。じゃあはじめてくれる?

中務:……仕方ない。今回は何だ。つまらなければ帰るぞ。

虚野:そういうなよ。まじめに知恵借りようってんだからさ。じゃあ中務、「内臓」。これはどんな連想を生む?あ、それ見るな、見ないで言え!先入観を与えたくない!

白石:……はいどうぞ。いきなり変なこと言われてもチンプンカンプンよね……。ざっと流してみて。ほとんど小説だから速読効くんじゃないかしら。

中務:(速読中)うわこれ面白え……。そうだな、まずは生命、そこから供物、犠牲。この辺は日本以外ではよくある発想だ。臓器(オーガン)と有機的=生命を持った(オーガニック)みたいな。ただしこれを裏返すと、死、喪失。そしてとくに人間のそれは、「外にあってはならないものが出ている」、「人間の外見、つまり一般に人間らしいものとはかけ離れている」という項から、恐怖、嫌悪という感情、それから、ええと……うまくコンパクトに言えないんだが、禁忌とか……あとは、異形?なんだか化け物みたいな得体のしれない何か。ともかく、割と生理的な嫌悪感が先に立つみたいなところあるよな……。

虚野:ん、ありがと。なんだかんだで真面目だな。そういうわけだ。で、この作品の場合、こういうイメージを湧かせるガジェットを出すことで、どのような効果、影響があるのか。この着眼点で行こうというわけだよ。

白石:私にとってはトラウマでしかないけどね。なんであんなテラテラヌルヌルが体の中にあるのか今でも納得できないわ。動きかたも気味が悪いし、色合いといい血管の様と言い臭いといいどうにも我慢ならない。ナメクジとかカタツムリとかと同じ恐怖があるのよね。

中務:うし終わった。これは一見後半の意味のみのように見えて最初に言った良い意味も入ってるぞ。ホラーと呼ぶには少し不適切かもな。あと関係ないが、白石は女性だから言いにくいんだけど、淫妖蟲?あれのスタート画像の触手ってぶっちゃけ内臓っぽくねえか?いい加減気色悪いよな。

虚野:はいそこまで話戻す。まあ言わんとする事はわかるが。じゃあ、この作品における内臓について考えようか。まず主人公、匂坂郁紀の幻覚がこれだ。この幻覚は普通の幻覚と違って置き換え型の幻覚だね。次に、厳密には違うけど、作中の登場人物は彼にはだいたいこう見える(正確には腐った肉塊)。メインヒロインの沙耶は内臓の塊に触手が生えたようなさまであると描かれているし、津久葉瑤も同様に改造されてしまう。そして、矛盾するようだけど、主人公と沙耶の主食もこれだ。二重三重に絡むファクターに意味を持たせられると、それはただ説明するよりずっと強い説得力を生むはずなんだ。

白石:主人公は美しいものと醜いものが反転していると思えば理解は速いわね。でも彼はそのことを自覚している。理性も判断力も失わず、倫理と感覚のみが異常。これは稀有な症状ね。

中務:だな。ホラーとしての問題は主人公視点に寄せすぎちゃたったんだな。食事、シンクをリアルに描けばもう少しホラーっぽくなったろうに、主人公視点のインパクトが強すぎて彼の行動が割と正当というか、同情的に見れてしまう。俺はだからこの食事のシーンはむしろ感銘をうけたね。「命を食べる」というイメージにものすごく近い表現だ。加工して食べるというのは高度に文明的だが、同時に犠牲になった命から目をそらす意味合いもあるからな。そして主人公がそれを自覚していながら「ふぅん」という程度しか反応しないところもこの構図から逃れ得ないということを素直に受けとめるようで好印象だ。もちろん幻覚が手伝っている部分もあるが。

虚野:幻覚のほうも触れような。これは白石さんが言った通り、美醜の反転、そこからくる倫理の崩壊。これが期せずしてこの物語を重くしているんだよな。つまり、だ、倫理ってロジックじゃないんだよな。もっと感覚的で根拠がないんだ。そのくせ僕らのありさまを強く縛っている。それは人間が社会生物である以上当然なんだけど、そのせいで取りこぼされている視点は絶対あるし、取りこぼしていい理由もない。つまり、正常なはずの友人たちがいかにあやふやな不文律、共通幻想にくるまれているのか、それが僕らには見えてしまう。そしてそれは見方次第ではひどく偽善めいて見える。「真実」をみていない、と。

白石:「真実」?「幻覚」なのに?おかしくないかしら。

中務:いや、幻覚ってのは魔術でもよくつかわれる。予知、予言、占いなどでは積極的に見ようとする。それは「幻覚」に先入観や自身の持つ「常識」、「間違った因果」を無効化する力があると思われたからでもある。つまり、「事実」からはなれて普段見る野とは別の「真実」をつかもうというわけだ。逆にいえば俺たちはそういうもののせいで常に真実から遠くにあるし、あるべきだ。そういう反省がある。

虚野:そうしてみると、果たして彼は狂っていたのか。NOと私たちは答えたくなるけど、じゃあ一シーンだけ切り取ってみてみよう。主人公が耕司と対決する時、それを耕司視点で切り取ったシーン、これを彼と同じ情報量で分解する。どんな感情を抱く?

白石:これ本当に象徴的よね。ええと、でも主人公の論法って耕司瑤を攻撃したのと同じ論法よね。あれ、じゃあ耕司おかしいわ。自分が正しいようでいて結局生理的嫌悪感に強く揺さぶられてる。主人公を気持ち悪く思ったのも彼に自分への同情や共感がなくて、でも同時に自分もそれを持ち得なかったのもあるんじゃないかしら。追い詰められていたとはいえ、友人を取り戻すんじゃなく、自分の理解を超えた、友人の面をしたミュータントをたたきのめしたい、そんな側面すら見えるわ。

虚野:ちがうよ。それは主人公と耕司の視点両方を持つ私たちだけの「真実」。いまは耕司の「真実」に忠実にならなきゃ。

白石:良心の呵責に耐えかねるわ……「何こいつ気持ち悪い、怖い」、これ以上でも以下でもなくて、あとはわからないものを消すっていう前論理的な頭の悪い発想かしら。

中務:だろうな。このへんが作者の抱いた大きなテーマ、「狂うとは何か」、ここにかかわってくる。先に筆者の考えを言うと、共同体としての社会から感覚的な同意を得られないものが狂っているのであって、通常から逸脱すれば狂っているというのは違うのではないのか。ということだ。そのうえで、狂い得なかったものと狂ったものとの「真実」は、どちらのほうがより確かなものなのか。

虚野:「命を食べる」「倫理の前論理性」「社会という共通幻想」。こういったメッセージのせいで正直主人公側のほうがこの時点ですら有利なんだ。僕たちが人類である以上に人間であるということがいかに脆いのか、生きることすらもいかにあやふやなのか―「じんるい」と読まずに「じんかん」と読んでもいい。それは世界であり社会であるということだーそしてこれこそが筆者が常に抱き、その身に刻みこんで忘れまいとするテーマでもある。よく「がっつりした話が読みたい」と言っているのはこれのことだね。だいたい。

白石:それじゃ今回は一回ここで休憩しましょう。次は何をやるの?

虚野:「タンポポ」。作中の超感動シーンの布石なんだけど、実はこの部分は生物学的におかしい。そのおかしい部分が、沙耶が得た、知性を持つ生物を超えた何か、彼女の隠れた、でもとんでもない奇跡を描きだす。

中務:ん?じゃあ俺は帰っていいか?

虚野:何言ってんの。私たちは終わらないよ。記事をここで切るだけ。

白石:次回考察編その二「たんぽぽと愛と恋」。乞うご期待です。

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